Privacy ON (2018)

Privacy ONは、主要インターネットメディア(Twitter、 Google、Facebook)のプライバシー設定を、ユーザーのインターネットの使い方に合わせ一瞬で自動的に変更してくれるWEBサービスです。

インターネット企業は情報を効率よくユーザーへ提示するために、ユーザーからパーソナルデータをとり、ある程度ユーザーに合わせて取捨選択し、用意する「情報の個別化」(パーソナライゼーション)をしています。しかしユーザーからパーソナルデータを取ることは多くの問題を孕んでいます。
例えば 2018 年の Facebook ユーザーのデータ流出事件では、アメリカ大統領選挙のトランプ陣営が、選挙活動で Facebook のデータを使用し、トランプ支持になりそうな層に対して広告を発信することで票集めをした可能性があることがあると言われてます。つまり、ユーザーの考えがいつの間にか企業に操作され変えられる可能性もあるということです。
企業はこの問題を分かりながら、パーソナライゼーションの仕組みを変えようとしません。なぜなら、人々は無料でサービスを使える代わりに、これら会社の収益は収集したパーソナルデータを売買することで成り立っているからです。また、ユーザーは結局自分たちのどのような情報が取られているのか目に見えて分からないため、日々意識せずインターネットを利用しています。
この状況をふまえ、ユーザーは受動的に全ての情報を受け取るのではなく、ユーザーのインターネットの使用方法の違いに合わせ、どのようなパーソナルデータをインターネット企業に渡すのか自分自身でコントロールすること(能動的選択)が必要だと考えました。
しかし、プライバシー設定項目は Twitter、Google、Facebook3つのサービスだけでも70項目以上あり、ユーザーが一つ一つ自分で考え選択することは、負担が大きすぎます。よってPrivacyONは70個以上の選択肢を5つの選択肢まで少なくすることで、選択の負担を軽減することにしました。

 

使い方は簡単。Twitter、Google、Facebookのうちプライバシー設定をしたいメディアのアカウントのID・パスワードを入力し、5つのうちから自分に会ったインターネットの使い方(以下ネットライフスタイル)を選べば、一瞬でプライバシー設定を完了できます。

選択する5つのネットライフスタイル
インターネットユーザーのライフスタイル、つまり人生観や価値観などの個人の生き方を 5 種類に分け、筆者の意見の偏りが出ないような名 称の付け方をすることでユーザーの能動的選択を促せるような工夫をしました(5つの項目は、情報メディア環境における人々の情報行動タイプから分析し設定)
なぜ作者はパーソナルデータを自分で管理することが重要だと考えるのか。
今後、より情報の個別化は進むと考えます。なぜならインターネット広告の収益拡大と利用者の情報過多を緩和することからアルゴリズムの導入は合理的だからです。また現在、人工知能・AI などが取り込まれた商品の開発が急増しています。例えば「Google home」や「Amazon echo」は音声認識を導入し、ユーザーの行動を学習してパーソナライズします。今後は、PC やスマートフォンからだけではなく、車、乗り物など様々なものから、その使用者のパーソナルデータを入手できるようになる。この流れは止まらず今後も引き続き、パーソナルデータの収集量や種類は爆発的に増えるでしょう。では、こうなった時に私たちの生活はどうなるのでしょうか。
 現代における 10〜20代いわゆる若年層は自分に合った情報を効率よくもらえるならパーソナルデータを全て渡しても良いと考える割合が高いです。パーソナルデータが収集され続けるとなれば、もしかすると小説「1984年」のように、全ての生活を政府が監視する社会になる可能性もあります。現実的に起こりうる問題は、インターネットスキルの高低が生む情報格差です。情報格差とは「コンピュータやインターネットなどの情報技術(IT:Information Technology)を利用したり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差」という意味です。現代のインターネット普及率は84%を超えているため、インターネットを使用していることは前提としてユーザーがインター ネット上でどのような情報入手行動をするかによって得られる情報が違うことが機会格差に繋がるといえるでしょう。
 よってインターネットを使用しつつ、どのようなパーソナルデータを渡すのか、渡さないのかユーザーが能動的に選択することが、機会格差をなくすことに繋がると作者は考えます。そしてその手段の一つが、プライバシー設定を変えることです。 本研究にて使用する「能動的選択」という言葉は、行動経済学者キャス・サンスティーン(2018 p.163)による定義、「ユーザーが自分の意志で選択すること」を意味します。キャス・サンスティーンは、責任感を負わせることが望ましい場面では能動的選択は 有効だと述べています。例えば、人間は自分が選んだ選択肢を好きになる。つまり、能動的 に選択すれば人はそこに力を注ぎ、ある意味選択したものを好きなるということです。
 作者は、ユーザー自身にインターネットの使い方の選択の責任を負わせることは重要なことだと考えます。ただ、特にプライバシー設定の場合、複雑で馴染みがないものであるため、能動的選択は選択者に大きな負担を強いるでしょう。故にユーザーの負担を抑えた能動的選択手段の必要性を提案します。
展示の様子(2018.11 IAMAS)
Twitter、Facebook、Googleのプライバシー設定を大きく展示し、プライバシー設定の多さを表した。手前にある自分に合ったネットライフスタイルのボタンを押すと、どのネットライフスタイルがどのようなプライバシー設定変更をされるか見れるようになっている
展示の様子(2018.11 Global grad show in Dubai)
展示の様子(2019.2 IAMAS2019)
プライバシー設定を自動ですることに、抵抗がある人に向け自分のネットライフスタイルに合わせたプライバシー設定項目の紙の配布もおこないました。
実際にプライバシー設定を変更することができる