TANAHARA MIZUKI Portfolio
Privacy ON
2018
Privacy ONは、日本においてユーザー数の多いメディアTwitter、 Google、Facebook という3つのメディアのプライバシー設定を、ユーザーのネットライフ スタイルに合わせ自動的に変更してくれるWEBサービスである。プライバシー設定を自分で選択することは、パーソナルデータを渡すのか渡さないのか 決めることができる手段の一つである。しかしながら、ユーザーは上記 3 つのサービスだ けでも 70 項目以上選択しなければならず、負担が大きい。そこで、プライバシー設定を 簡単に設定できるよう、ネットライフスタイル 5 種の中から1つ選べば、そのスタイルに 合わせプライバシー設定を自動的に変更するようにした。


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全世界に生み出されるデジタルデータ量は 2025 年には 2016 年の 10 倍になる 163 ゼッタバイト(163 兆ギガバイト)に達すると予想され、情報量は今後も増加の一途を辿るであろう。情報量が増えたことで、情報を効率よくユーザーへ提示するために、GoogleやFacebook などのインターネット企業はユーザーからパーソナルデータをとり、ある程度ユーザーに合わせて取捨選択し、用意する「情報の個別化」(パーソナライゼーション)を進めた。
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そして、インターネット企業は収益をあげるため、ユーザーのパーソナルデータを企業に売買している。このためインターネット企業は、パーソナライズするために開発したアルゴリズムを用いてユーザーに対し情報操作をすることで、人の行為主体性や尊厳は 損なわれる可能性がないとは限らない。 また、デジタルプラットフォームの普及で、公開されるデジタルデータの増加に応じて 世界的にデータ漏洩事件が増加している。例えば 2018 年の Facebook ユーザーのデータ流出事件では、アメリカ大統領選挙のトランプ陣営が、選挙活動で Facebook のデータを使用したかもしれないという話題や、 GDPR(EU 一般データ保護規則)施行で、EUにおいて企業に対するパーソナルデータの扱いが厳しくなるといった内容である。しかし、ユーザーは結局自分たちのどのような情報が取られているのか目に見えて分からないため、日々意識せずインターネットを利用している状況だといえよう。

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インターネット活動家イーライ・パリサーは、情報の個別化が進むとフィルターバブルが起きると述べている。フィルターバブルとは同氏が提唱した「インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断する機能(フィルター)のせいで、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見 えなくなること」を表す造語である。フィルターバブルが進むと、ほとんど内輪で言葉を かわすことで、共同体同士の相互理解がかなり難しくなる。そしてそれが進むと多様な集団が分極化するという。またこれは、過激思想をうみ、憎悪や暴力さえ産むことがあると イーライ・パリサーは述べている。

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しかし、企業はこの問題を分かりながら、パーソナルデータを収集し売買する収益システムを変えない。その理由の一つは、インターネットが無料ということに人間が慣れているからである。この状況をふまえ筆者は、インターネットを使用するユーザーが、受動的に全ての情報を受け取るのではなく、ユーザーのインターネットの使用方法の違いに合わせ、ユーザーがインターネット企業にどこまでパーソナルデータをどこまで渡すのか自分自身でコントロールすること、つまり能動的選択が必要だと考えた。

しかし、プライバシー設定項目は Twitter、Google、Facebook3つのサービスを合わせて70項目以上ある。これを、ユーザーが一つ一つ自分で考え選択することは、負担が大きすぎるため、前述のようにプライバシー設定をする人は少ないのだと筆者は考える。そこで、ユーザーがインターネットの使い方の意識を顕在化させた上で、プライバシー設定をしや すくするために行動経済学の「選択回避の法則」を用いた。「選択回避の法則」は人は選択肢が多すぎると選択することができないという人間行動の法則である。この法則を用いて、プライバシー設定70項目を5つまで少なくすることで、選択の負担を軽減することにした。



5つのネットライフスタイル
インターネットユーザーのライフスタイル、つまり人生観や価値観などの個人の生き方を 5 種類に分け、筆者の意見の偏りが出ないような名 称の付け方をすることでユーザーの能動的選択を促せるような工夫をしている。(5つの項目は、情報メディア環境における人々の情報行動タイプから分析し設定)
その 5つのネットライフスタイルをプライバシー設定の選択に落とし込むために、プライバシー設定も項目分けしている。以下が、その項目である。
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Privacy ONは、Twitter、Google、Facebookのうちプライバシー設定をしたいメディアのアカウントのID・パスワードを入力し、5つのうちから自分に会ったネットライフスタイルを選べば、一瞬でプライバシー設定を完了できます。
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展示の様子(2018.11 IAMAS)
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Twitter、Facebook、Googleのプライバシー設定を大きく展示し、プライバシー設定の多さを表した。手前にある自分に合ったネットライフスタイルのボタンを押すと、どのネットライフスタイルがどのようなプライバシー設定変更をされるか見れるようになっている
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展示の様子(2018.11 Global grad show in Dubai)
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展示の様子(2019.2 IAMAS2019)
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プライバシー設定を自動ですることに、抵抗がある人に向け自分のネットライフスタイルに合わせたプライバシー設定項目の紙の配布もおこなった。
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実際にプライバシー設定を変更することができる
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